変な服を着ているわけでもなく、奇抜な動きをしゃっしゃとしているわけでもなく。
普通。
でも、気になる。
なんで、あいつはあんな感じなんだろう?
朝倉かすみ氏待望の書下ろし新刊『ロコモーション』は、そんな女の人が主人公。
おとなしくて地味。そう言われたら、本人も嬉しい。
目立つことが嫌いな性格のアカリという人の、出生から40代になるまでの半生が、軽妙に、だけど心を抉るような描写で綴られた作品です。
最初はアカリの日常が淡々と、やもすればコケティッシュに描かれているように見えますが、次第に物語は、本人でもコントロールできない(あなた、できます? 私は、できません)人間の心の不思議さ、不安定さを照らしだしつつ、静かに暴走します。
そこにあなたは何を感じるでしょうか?
怖さか? 哀しさか? 滑稽さか? 愛おしさか? 諦念か?
ラストシーン。
彼女はある決断を迫られます。
その選択は、ハッピーなのか、アンハッピーなのか?
これまた、読む人によって受け取り方は違うと思います。
読むのにかかった時間以上の、言葉に出来ぬ強烈な読後感が続くこと、保証します。
うるうるする、とか、号泣する、というのではない、新手の感動が広がります。保証します。
そうか、こういう「感動」もあるのか。
あったんだよな、実は。
で、読んだ人同士「どうよ、どう思うよ?」と話し合いたくなります。
恋愛譚。人生譚。青春小説。心理劇。もしかしたらサイコサスペンス。
『ロコモーション』の印象は、人それぞれかもしれません。
『田村はまだか』で随所に見られた、おしつけがましさが全くない人間考察の鋭さに溢れた、一気読みの長編です。
ぜひ。
(県知事)