トリッキーな閉鎖状況、普通のサラリーマン探偵、会話による推理劇、そして、作中人物が考えをめぐらせながら飲む「飲み物」……等々、「作家は処女作に向かって成熟する」という至言もありますが、この第一短編集には、作家・石持浅海のすべての要素が含まれています。
そして、連作のテーマとなった「対人地雷」は、現実に世界を苦しめている、あまりにも重く大きな問題であるために、本格ミステリーのフィールドで描くには、きわめて難しい題材ですが、石持さんの抑制のきいた筆致と、健全な思想が相まって、希に見る水準のフィクションとなっています。
石持さん自身による本書の「あとがき」と巻末の参考文献一覧も必読! 「本格」にして「社会派」というこの「顔のない敵」を、どうぞよろしくお願いいたします!
ちなみに、石持さんは、本書の印税の一部を、難民援助の某NPO団体に寄付される予定。この本の売れ行きが、地上から「対人地雷」を少しでもなくしていく一助となればと願ってのことです。(あ)